とある外航船員の本音

外航海運会社で機関士をしています。

機関士は何をしているのか? 発電機編

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船の中でも陸上と同じように電気は必需品です。

その電気を作るのも機関士の仕事です。

 

今回は,船内で電気を作るために必要な発電機をテーマに機関士の仕事内容を紹介していきたいと思います。

 

発電機 

発電機の仕組み

船内の電気は発電機で作られています。

発電機では電磁誘導の原理を利用して電気を作っています。

 

他に電磁誘導の原理を利用する装置としてモーターがあります。

モーターでは電力を回転力に変換しています。

 

発電機ではその逆の現象を起こして電気を作っています。

すなわち,発電機では回転力を電力に変換しているのです。

発電機のしくみ-発電の原理-電気なんでも調査隊-キッズ・ミュージアム-四国電力-

 

発電機の構成

発電機は原動機発電機から構成されています。

原動機

原動機では,燃料を焚くことにより回転力を得ています。

原理的にはディーゼルエンジンもしくは蒸気タービンが多いです。

発電機

発電機では原動機で発生した回転力を利用して,電力を発生させています。

原理的には”モーターの逆”です。モーターは電気を流して回転力を得ていますが,

発電機では回転力によって電気を得ています。

 

(以下便宜的に,原動機と発電機を総称して発電機と呼ぶこととします)

 

発電機の燃料

発電機の燃料は,基本的に主機と同じものを使います。

ディーゼル船であれば重油,LNG船であれば液化天然ガスです。

ちなみに,燃料の状態を管理するのは二等機関士の役割です。

 

発電機は複数台ある

外航船の場合,万一の場合に備えて,

3〜4台の発電機が備えられているのが普通です。

 

例えば,スタンバイ中や荒天航海中は緊急時に備えて2台以上で並列運転しています。

荷役中も電力を多く利用するため,2台以上で並列運転することが多いです。

大洋航海中は発電機が停止しても切迫した状況にはなりにくいので1台だけで運転しています。

  

 

発電機の担当は二等機関士

発電機の維持管理を担当するのは二等機関士です。

 

以前の記事でボイラーの担当は三等機関士と説明しましたが,

発電機はボイラーよりも重要度が高いので,より上の立場である二等機関士が担当することになっています。

 

ちなみに一等機関士は主機を担当します。一番重要な機械ですからね。

三等機関士は今後の学びのために,時々二等機関士の仕事を手伝ったりします。

 

発電機を止めるな!

二等機関士は燃料油や潤滑油の温度と圧力に異常が無いか,許容範囲に収まっているか常に目を光らせています。

これらの値が異常の時に,発電機は自動で停止してしまいます。

発電機が停止するとブラックアウトが発生するため,非常に危険です。

 

恐怖のブラックアウト

発電機は時々,自動で緊急停止することがあります。

発電機が緊急停止すると船内に電力が送られなくなりますから,

船内,特に機関室は真っ暗になってしまいます。

 

このように発電機が緊急停止して船内が真っ暗になることをブラックアウトといいます。

機関室は基本的に窓が無いので,ブラックアウトすると本当に真っ暗になります。

私も何度かブラックアウトの経験がありますが,ブラックアウトした瞬間は本当に焦ります。

 

非常用発電機 

しかし,外航船はブラックアウトした瞬間に非常用発電機が自動で始動するようになっています。

非常用電源の設置は法律で決まっていることなので,例外はありません。

非常用電源が備えられていない船舶があるとしたら,法律違反です。

特に推進力に関する機関は死活問題ですから,ブラックアウトから30分以内に始動するような非常用電源でなければなりません。

 

ごく稀に非常用発電機が自動で始動しない場合があります。この時は少し大変です。

真っ暗闇の中,自力で原因を究明しなければならないので,機関士の知識と経験が問われます。

 

ブラックアウトの原因 

ブラックアウトの原因は燃料油や潤滑油の圧力が低下した場合が多いです。

燃料油や潤滑油の圧力低下は,配管内の詰まりに起因しています。

配管を詰まらせないためには,燃料油や潤滑油を清浄に保つ必要があります。

 

清浄機

油には清浄機が必須

ブラックアウトを起こさないために,燃料油や潤滑油は清浄に保たなければなりません。

そのため,燃料油や潤滑油の配管には,清浄機という装置が備えられています。

清浄機では,燃料油や潤滑油に含まれる不純物を取り除いて,油を綺麗にしています。

油を綺麗にすることで,配管内の詰まりを予防しているのです。

 

清浄機が正常に動作するためには運転管理と日々のメンテナンスが必須です。

これを行うのも二等機関士の仕事です。

 

清浄機の仕組み

清浄機は油に含まれる不純物や水を除去します。

どのように不純物を除去するのでしょうか?

 

答えは遠心力です。

清浄機に送られた油は回転体に入れられ,高速で回転することにより遠心力を受けます。

油に含まれる不純物の多くは油よりも密度が大きいです。

ですので,不純物は回転体の外側に集まっていきます。

 

ある程度集まったところで,不純物は排出され,綺麗になった油のみ回収します。

 

Youtubeに,清浄機の仕組みを解説した動画が沢山アップロードされています。

説明は英語ですが,油から不純物が取り除かれる様子がアニメーションでよくわかります。

 

 

清浄機のメンテナンス

清浄機には汚れた油が絶えず供給されています。

長期間運転していると清浄機の内部に汚れが溜まります。

 

清浄機の内部に汚れが溜まると,清浄機の能力が低下し,不純物を十分に除去できなくなってきます。

 

そうなると,やはり燃料油や潤滑油の配管が詰まったり,最悪の場合,主機や発電機が緊急停止する原因となります。

 

主機や発電機を緊急停止させないために,清浄機の内部を時々掃除して,清浄機の能力低下を防ぎます。

 

まとめ

船内に電力を安定的に供給するために,

機関士は発電機の維持管理をしています。

電気は重要なライフラインですから,二等機関士の担当です。

 

そして発電機を動かすには燃料油と潤滑油が必要ですが,

燃料油と潤滑油を適切な状態に保つために,船には清浄機が備わっています。

清浄機の維持管理も二等機関士の担当です。

 

清浄機で綺麗になった燃料油と潤滑油は,発電機だけでなく主機にも供給されるので,

二等機関士の責任は三等機関士よりも大きくなります。

 

二等機関士はブラックアウトや主機の緊急停止を発生させないよう,

発電機と清浄機の運転状態に眼を光らしているのです。