とある外航船員の本音

外航海運会社で機関士をしています。

商船の種類 一番楽しい船は何か?

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商船の種類

船乗りとして働くことになったら,

どうせ乗るなら楽しい船で働きたいですよね。

今回は現在運航されている外航船の種類を解説していきます。

 

石油タンカー

航路のおもしろさ:★☆☆☆☆

求められる技術力:★★★★☆

 

商船といえば石油タンカーをイメージする方も多いかもしれません。

巨大なタンカーで運べる石油の量は,ものすごい量です。

一隻で日本で一日に消費される石油の量の半分と言われています。

すなわち,石油タンカー2隻で日本で一日に消費される石油を賄えるというわけです。

 

石油タンカーの寄港地は産油国である中東が多いです。

必然的に日本と中東をひたすら往復する航路になります。

中東では基本的に上陸できないので,航路的にはあまり面白くありません。

 

日本と中東の往復に概ね1ヶ月程度要します。

乗組員は一ヶ月に一度,日本で上陸をするチャンスがあるわけです。

石油タンカーの船乗りは,世界を股にかける船乗りのイメージとは少し違いますね。

 

タンカーに乗務する上で様々な資格が必要です。

そのため,上の役職になるにつれて,タンカーのエキスパートとして働く人が増えていきます。

職人気質,いぶし銀な人が多いので,技術継承の面で課題があります。

航海士としても,喫水(船底から水面までの距離)が大きいので操船に注意を要します。

 

コンテナ船

 航路のおもしろさ:★★★★☆

 求められる技術力:★★★☆☆

 

コンテナ船は積荷の性質上,石油タンカーと比較すると,様々な港に行くことができます。

ただ,コンテナの積み下ろしにはガントリークレーンが必要です。

ガントリークレーンのある港は都市圏が多いですから,ある程度は限られます。

また,コンテナ船は巨大なものが多いので,その点でも停泊できる港は限れます。

昨年,商船三井の世界最大級のコンテナ船のプレスリリースがありましたね。

世界最大のコンテナ船MOL Triumph竣工 ~世界初20,000TEU超のコンテナ船 アジア-北欧州航路に就航~|商船三井

 

コンテナ船は一般的に定期航路なので,出入港の時間も決まっています。

時間厳守のため,船内は落ち着きがない雰囲気です。

 

機関部ではアンカー中などの隙間時間に機器の整備を行うことが多いですが,

制限時間が短いのでテキパキと対応する必要があります。

 

ドライバルク船 

航路のおもしろさ:★★★☆☆

求められる技術力:★★☆☆☆

 

石炭や鉄鉱石,小麦や木材チップなどを運ぶ船です。

寄港地は運ぶものによりけりです。全体的に僻地が多いですね。

 

石油タンカーコンテナ船ほど船体が大きくないので,

パナマ運河を通ることができます。

 

コンテナ船ほど時間厳守ではないので,船内の雰囲気は穏やかです。

 

自動車運搬船(PCC)

航路のおもしろさ:★★★★★

求められる技術力:★★☆☆☆

 

PCCは船体が小さいので小回りがききます。

貨物の自動車ですが,普通の岸壁であれば積み下ろしができるので,

都会から僻地まで様々な港に行くことができます。

航路的には貨物船の中で最も面白い船種だと思います。

「PCCに乗っていたら,気づいたら世界一周していた」ということもよくあります。

 

PCCは大きくても全長200m程度です。

コンテナ船は大きいもので400m近くありますから半分以下の大きさです。

 

船体が小さいと移動時間が少なくなるので作業が楽になります。

主機の出力が小さいため,機関室もこじんまりとしています。

 

デメリットですが,忙しい時が地獄です。

出入港ラッシュ時は1日2港のペースです。

それが一週間くらい続くので,休息時間が不規則且つ短くなります。

この出入港ラッシュ時は,甲板部や機関部に関わらず疲労困憊です。

 

特に一等航海士は荷役の責任者ですので,

出入港ラッシュ中はほとんど寝ることができません。

 

LNGタンカー

航路のおもしろさ:★★☆☆☆

求められる技術力:★★★★★

 

航路的には石油タンカーよりマシです笑

しかし,基本的に僻地が多いのであまり面白くはありません。

寄港地は中東,ロシア,オーストラリア西岸が多いです。

 

上に紹介した船舶のほとんどがディーゼル船ですから燃料は重油です。

一方LNGタンカーの場合,重油ではなく液化天然ガスを燃料としています。

 

そのため推進期間はディーゼル機関ではなく蒸気タービンです。

蒸気タービンの仕組みはディーゼル機関とは全く異なります。

そのため機関士には,ディーゼル機関とは別に,専門的な知識と経験が求められます。

 

液化天然ガスという積荷は-160℃という極低温の状態で輸送されます。

そのため取扱が難しく,海運会社には高い技術が求められます。

 

その他にも,大規模な施設が必要であることや開発が長期に渡ることなどから,

新規参入には資本力が必要です。

世界中でもLNGタンカーを扱える海運会社は少ないです。

 

豪華客船

航路のおもしろさ:★★★★★★★

求められる技術力:★★★☆☆

 

客船という性質上,航路の面白さはおそらくダントツです。

貨物船が行くような港は基本的に周囲に何もありませんが,

客船の場合,見どころのある港に行くことが多いです。

 

技術的な面では,静寂性の観点から電気推進を採用する船が増えてきています。

振動や騒音の激しいディーゼル船は客船には向いていないようです。

 

客船ならではの技術として,フィン・スタビライザーがあります。

フィン・スタビライザーを取り付けると,船体の横揺れを抑える効果が期待されます。

 

まとめ

世界を股にかける船乗りのイメージに一番近いのは,

コンテナ船,PCC,豪華客船だと思います。

 

石油タンカーやLNGタンカーは航路のバリエーションが少ないですが,

技術的には興味深い船種が多く,今後の発展が期待されています。

 

私は車が好きなので,PCCが一番好きですかね!

PCCの貨物室は新車独特の香りに包まれています。

古今東西様々な自動車に出会うことができます。