とある外航船員の本音

外航海運会社で機関士をしています。

機関士は何をしているのか? 空気圧縮機編

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今回は船の重要機器の一つである空気圧縮機について記事を書きました。

 

 

 

空気圧縮機とは

機関室には空気圧縮機という装置が備えられています。

空気圧縮機はその名の通り空気を圧縮して高圧の空気を作る装置です。

 

圧縮された空気の圧力は0.8MPa程度です。

大気圧が0.1MPa程度ですから,8倍程度の圧力ですね。

 

圧縮された空気はAir Reservoirに貯めておきます。

「空気を貯める」というのは日常生活にはない感覚ですが,

高圧の空気をいつでも使えるようにAir Reservoirが備えられています。

 

高圧の空気を何につかうのか?

高圧にした空気を何に使うのでしょうか?

列挙してみました。

 

ディーゼル機関の始動

ディーゼル機関は始動する際に高圧の空気を利用します。

高圧の空気でピストンを動かして始動時の回転力を得ています。

ですので,高圧の空気を失うとディーゼル機関を始動することができません。

 

入出港時は主機の発停が頻繁に行われるため,

Air Reservoirの圧力に注意する必要があります。

 

Air Reservoirの圧力を確保するために,

空気圧縮機が複数台設置されているのが通常です。

Air Reservoirの圧力が低下してくると,自動で空気圧縮機が始動します。

 

また,荒天時は主機がトリップする可能性があるので,

すぐに再始動できるようにAir Reservoirに空気を貯めておかなければなりません。

 

上記の理由から,空気圧縮機は非常に重要な機器と言えます。

 

制御用空気

船内には様々な制御装置があります。

制御装置によって燃料油・蒸気・冷却水の温度や圧力をコントロールしています。

 

制御装置自体の動力源として高圧の空気を用います。

電気式の制御装置で燃料油の温度を制御すると火事になる危険性がありますからね。

 

空気式クレーン

空気で回るモーターが入っています。

火気厳禁の場所で使用されます。

例えば,燃料を補給する際にバンカーバージから配管を接続するマニホールド付近です。

電気式のクレーンを使うと引火の恐れがありますからね。

 

LNG船では貨物の天然ガスに引火させないために,

マニホールド付近のクレーンは空気式や油圧式を用います。

 

空気式の工具

グラインダーやエアガンなど工作室で使用する工具の動力源として高圧の空気を使用します。

 

機関士が気にしていること

ドレンの排除

湿度の高い海域に行くと圧縮空気の配管にドレンが大量に発生します。

ドレンとは空気中に含まれる水蒸気が露点に達して水となったものです。

 

配管やAir reservoirにドレンが貯まると錆や故障の原因になります。

主機に水が入ると低温腐食の原因にもなります。

 

空気の漏れは発見が難しい

空気の配管の難しいところは漏れていても気づきにくいところです。

空気という性質上,漏れていても蒸気や燃料油ほどの問題にならないですが・・・。

 

優れた機関士は五感をフル活用して異常を察知しますが,

空気については目で見えないので音が重要になります。

 

機関室を歩いていて,シューという音がどこからともなく聞こえてきたら,原因を特定しなければなりません。

 

機器の作動状態でも配管の漏れを判別することができます。

例えば空気式のモーターの場合は,空気の圧力が変わると,作動音や作動スピードが変わるでしょう。