とある外航船員の本音

外航海運会社で機関士をしています。

機関士は何をしているのか? 潤滑油編

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潤滑油

船のエンジンを動かすために潤滑油は必須です。

潤滑油の管理を行うのは機関士の役目です。

 

 

 

潤滑油の重要性

船において潤滑油は非常に重要です。

燃料油の重要性については以前の記事で紹介しました。

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”潤滑油”と聞くと一般に”機械類のすべりを良くする”というイメージがあると思います。

そのような印象から「燃料を焚くことができれば,潤滑油なんて少しくらい無くても大丈夫じゃない?」と思われる方もいるかもしれません。

 

燃料油は車で言うところのガソリンに相当しますから,

一般に”無ければ走れない”というイメージがあると思います。

潤滑油は車でいうところのエンジンオイルに相当します。

「車のエンジンオイルがなくなるとどうなるか?」と聞かれると,

咄嗟に回答するのは少し難しいかもしれません。

 

潤滑油の重要性については,

物理的・化学的側面から説明を要する事項が多いため,

その重要性を理解するためには,ある程度の前提知識が必要です。

 

潤滑油の役割

潤滑油の役割を大別すると下記6つの役割があります。

1.摩擦を軽減して機械の動きをスムーズにする

2.摩擦や燃焼によって熱を持った部品を冷却する

3.pHを調整することで金属表面が腐食されるのを防ぐ

 

4.主機のシリンダライナとピストン(リング)の隙間に油膜を作り,燃焼時の気密性を高める

5.不純物を洗い流す

6.応力を分散する

 

やや専門的な内容もありますが,

潤滑油は各機器類の回転部や摺動部に供給されることで,

これらの役割を果たしています。

 

船のエンジンは非常に巨大かつハイパワーですから,

数ミリ単位の部品のずれでもエンジンの破損を発生させ,

船の運航を停止してしまう可能性があります。

場合によっては人身事故にも繋がりかねません。

 

 

機関士の役割

潤滑油を適切な状態に保つことで,

故障や事故を未然に防ぐのが機関士の役目です。

上述した潤滑油の6つの役割を最大限発揮させる必要があります。

 

潤滑油には温度管理が必要

潤滑油は粘度を適切に保つ必要があります。

粘度は「ドロドロか,サラサラか」という状態を表します。

 

潤滑油の粘度は温度によって変化します。

温度を適切な状態にすることで最適な粘度を保つことが重要です。

 

例えば,温度が高すぎると,粘度が低くなり潤滑油はサラサラになります。

潤滑油がサラサラだと,上述4に必要な油膜が形成されないばかりか,

潤滑油自体の寿命が短くなります。

また,その高温によって部品の劣化も進みやすいです。 

 

一方,潤滑油の温度が低すぎると,粘度が高くなり潤滑油はドロドロになります。

潤滑油がドロドロだと摩擦が大きくなってしまい,

上述1,2,5の役目が果たせなくなります。

 

温度の調節方法

潤滑油は蒸気によって温められています。

その蒸気の流量を変化することによって,

潤滑油の温度を調節します。

 

蒸気が通る配管の弁の開度を調節することにより,

蒸気の流量を調節していますが,

人間が手動で調節することは稀です。

 

多くの場合,機械による自動調節を行っています。

この機械を粘度調節器といい,

現在の粘度と目標の粘度とのずれを検知して,そのずれに応じて蒸気の弁の開度を変化させています。

 

自動とはいえ,これらの調節が適切に行われているか,

機関士が定期的に監視しておく必要があります。

 

潤滑油を綺麗な状態を保つ

潤滑油は上述5に書いた通り,不純物を洗い流す役割も持っています。

ですので,機器類の供給される潤滑油は清浄な状態に保たれていなければなりません。

 

潤滑油を清浄にする方法は燃料油と同じです。

遠心力によって汚れや水分を除去する清浄機を使います。

 

清浄機に送られる燃料油の流量や温度,圧力を適切に保つ必要があるので,

機関士は見回りの際にこれらの値に注意を払っています。

 

添加剤を入れる

潤滑油を適切な状態に保つために,添加剤を投入するという方法があります。

添加剤には様々な種類があり,

酸化防止剤,清浄分散剤,粘度指数向上剤,流動降下剤,極圧添加剤,油性向上剤などなど,上げていくとなかなかキリがありません。

 

説明しやすいものでいうと,

例えば,酸化防止剤を使うと,潤滑油が劣化しにくくなり寿命が伸びます。

他にも,粘度指数向上剤を使うと,温度による粘度の変化が起こりにくくなる,といって具合です。

 

機関士は潤滑油の性質を定期的に検査しています。

その検査結果に応じて,各種添加剤の投入を判断しています。