とある外航船員の本音

外航海運会社で機関士をしています。

練習船の中では何が起きているのか?

 

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本日は,船乗りの卵が訓練を受ける”練習船”という船について記事を書きました。

船乗りの卵たちは練習船の中で何をしているのでしょうか?

 

 

昨年から今年にかけて,練習船での事件や事故が相次ぎ,話題になりました。

ネガティブなニュースですが,それで練習船を知った方もいるかもしれません。

 

tocana.jp

www.sanspo.com

 

船乗りの卵の多くは練習船で訓練を受けることになります。 

今回は,練習船の中で学生たちは何をしているのか,

私の体験談に基づいて紹介していきたいと思います。

 

 

練習船の概要

練習船の概要について簡単に説明します。

既にご存知の方は飛ばしていただいて結構です。

 

練習船は海技教育機構という団体が保有しており,2018年現在

日本丸,青雲丸,海王丸,銀河丸,大成丸の5種類の船があります。

 

このうち日本丸と海王丸が帆船で,

青雲丸,銀河丸,大成丸はディーゼル船になります。

 

練習船はその名の通り,訓練のために乗る船です。

大学や高等専門学校に通う学生が乗船実習で乗ることになります。

一度に乗る学生の数はおおよそ150〜200名です。

  

練習船の一日のスケジュール

停泊時や仮泊時は以下のようなスケジュールで過ごします。

 

整列と体操

朝一番で後部甲板に整列します。

遅刻すると全員の前で謝罪しなければなりません。

体操では学生が日替わりで前に出て体操の号令をかけます。

声が小さかったり体操の順番を間違えると怒られます。

 

掃除

役割分担をして船内の掃除をします。

朝の掃除は教官のチェックがないので比較的気楽です。

 

練習船ならではの掃除で、”甲板流し”というものがあります。

ヤシの実と水で暴露甲板を磨きます。

これがなかなか辛く,冬でも裸足で作業します。

冬の明朝に冷水に浸かると,凍傷になるんじゃないかと思うほど冷たいです。

 

朝食

皆一緒に食事を摂ります。食堂は狭いのですし詰めになります。

御飯と汁物はセルフサービスなので,大食いの人でも安心です。

メインとして目玉焼きや卵焼き,スクランブルエッグが出ることが多いですね。

あとは納豆とか。

 

練習船の職員は,100名以上分の食事を作らなければなりませんから,

とにかく量が半端ないです。

 

ひじきやおひたしなどの小鉢やサラダなどもついていますので,

栄養のバランスはしっかり取れています。

 

午前課業

授業もしくは実習を行います。

船の中にも教室があり,授業を受けることもできます。

実習では操船シミュレータを用いた訓練や配管調査,機器の取扱などを学びます。

 

昼食

カレー,丼もの,ラーメンなど一品物が多いです。

ちなみにカレーは”練習船カレー”という名前で市販されています。

練習船カレー | 独立行政法人 海技教育機構

 

皆素早く食べて午後課業までの休憩時間を確保します。

昼寝をしたり,コーヒーを飲んだりして午後課業に備えます。 

 

整列と体操

朝と同様,整列して体操をします。

 

午後課業

午前課業と同様です。

昼食後なので,眠くならないように注意しなければなりません。

船内の作業には危険が伴いますから寝不足は厳禁です。

 

夕食

夕食はメインが2つあることが多いです。

例えばハンバーグと魚の塩焼きとかですね。

 

停泊中だとその土地の名産品が出ることもあります。

例えば,下関だとフグの刺し身が出たことがありますね。

 

ちなみにですが,アレルギーなどの体質や宗教上の理由で食べられないものがある場合は,乗船前に申告しておく必要があります。

そのような方には特別に配慮されたメニューが提供されます。

 

自由時間

夕食から夜の掃除までは3時間ほど自由時間です。

甲板に出て運動したり,教室で勉強したり,各々の時間を過ごします。

 

ちなみに乗船実習中は船内でお酒を飲むことはできません。

見つかると厳しい処分を受けることになるでしょう。

未成年の学生だと尚更です。

 

喫煙は決められたスペースであれば可能です。

 

掃除

朝の掃除と異なり,夜の掃除は終了時に教官からチェックを受けます。

嫁と姑の小競り合いみたいですが,そこまで厳しくはありません。

 

自由時間

消灯時間(2230)まで自由時間です。

消灯時間を過ぎて起きていると教官に怒られます。トイレくらいは大丈夫です。

試験直前になると夜更かしの許可が出ることもあります。

 

訓練の内容(一部)

航海系

航海中は実際にブリッジに立って操船をします。

もちろん教官がそばに付いているので安心です。

 

5〜6人のグループを作って役割分担をします。

役割分担にはルックアウト(見張り),リーサイド(気象観測),ホイール(操舵当番),レーダー(レーダー観測を行う)があります。

 

機関系

主機や発電機など,各機器の原理や取扱について学びます。

他にも,清水を作るための造水器や汚れた油を綺麗にする清浄機など,

一般的な船舶に備えられる機器について一通り学習します。

 

実際に主機や発電機の発停を行ったり,

各機器類のメンテナンスを行うこともあります。

陸上ではできない経験に重きが置かれる感じですね。

 

航海中は機器類を開放するなどの作業が難しくなるので,

見回りや配管調査を行うことが多くなります。

機関系の学生にとって配管調査をすることは,

全実習の中で最も重要であると言っても過言ではありません。

 

複雑に絡み合った配管の場所や相互関係を理解しておくことで,

実職を得た時にも大いに役に立ちます。

 

練習船あるある

教官のものまねが流行る

練習船の教官は個性的な人が多いです。

故に学生の間で教官のモノマネをする輩が必ず出てきます。

教官に個性的な人が多いのは,おそらくですが,100人以上の学生を統制するために常に気を張っているからだと予想されます。

船を降りてから教官に会うと,実習の時の威圧感は全くありません笑

 

娯楽用にウクレレやギターを持ち込んでみるけどすぐ飽きる

船内には娯楽が少ないので楽器などを持ち込んで新しい趣味を初めてみようとする者が必ずいます。

ウクレレが多いのは遠洋航海でハワイ寄港することが多いからです。

ギターはまあ・・・海の男という勝手なイメージでしょうね。

下船時に不要となったウクレレを談話室に置いていく者が後を絶ちません笑

 

電波の取り合いのため窓際が人気

日本近海を航海する場合,携帯電話の電波はそれなりに入ります。

しかし,電波の強さがギリギリの場合,しばしば窓際の取り合いになります。

またWi-Fiのモバイルルータを窓際に設置することで,快適なネット環境を構築する者が出現します。

 

寄港地で大量にお菓子を買い込む 

お菓子やジュースも船内での数少ない娯楽の一つです。

しかし,長い航海の終盤になるとお菓子のストックが少なくなったり,同じお菓子ばかり食べて飽きてくるため,

お菓子を交換したり,売買する連中が発生します。

 

女子学生が全員可愛く見えてくる

これは男子学生の宿命かもしれませんが・・・。

船内は基本的に相部屋なので禁欲が徹底されています。 

特に長い航海ではフラストレーションを抱える男子学生が急増します。

その結果,異性に対して”乗船マジック”という現象が起きてしまいます。

ちなみに,トラブルを避けるため異性の部屋に入ることは禁止されています。

 

悪い噂について

以前は昔気質の人が多く,教官の理不尽ないびりやいじめなどが問題になることが多かったよう。

しかし,今どきそんなことしている教官はほとんどいません。

勿論ふざけていると怒られますが,大抵の教官は質問や相談など快く応じてくれます。

 

学生同士の不仲は時々あります。

3ヶ月間相部屋で生活しますから,初めは気にならなくても

ストレスが溜まっていくと,些細なことが気になってきます。

 

船内はお世辞にも治安が良いとは言えません。

冷蔵庫に入れていたお菓子やジュースが失くなったり,

洗濯物が盗難されたりすることは多いです。

 

まとめ

以上,練習船の中で学生たちは何をしているのか紹介させていただきました。

学生たちはそれなりに楽しみつつ,ストレスを受けつつ,充実した時間を過ごしていることが伝われば幸いです。

 

私個人の練習船の感想ですが「めちゃくちゃ楽しいわけではないが,そこまで辛いわけでもない。ただ『もう一回乗れ』と言われたら,それは嫌だ(笑)」という具合ですね。