とある外航船員の本音

外航海運会社で機関士をしています。

航海士と機関士の待遇の違い

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航海士と機関士の違い

今回は航海士と機関士の違いについて記事を書きました。

どちらも同じ船乗りですがその業務内容は全く異なります。

待遇にもどのような差があるのか,記事にしてみました。

 

 

華やかさは航海士

花形は断然,航海士です。

航海士というのは一般的にも仕事の内容がイメージされやすいので,話のネタにもしやすいです。

 

また世界最大のモビリティを動かせるという体験は何物にも代えがたいと思います。

20代の若者でも,数百メートルの船舶を自分の指示の下に動かすことができます。

 

あと船長になることができるのも航海士だけですね。

船長はやはり特別です。

船長はマスターとも呼ばれます。

他の船員はあくまで従業員ですが,船長は支配人です。強力な権限が与えられています。

航海士の道に進むと,「船長になる!」という強い覚悟と目標を持って働くことができます。

  

機関士はオールラウンダー

一方,機関士の仕事は地味です。

油まみれ,汚れまみれになってまさにブルーカラーといった感じです。

 

機関士の凄さはあらゆる機械に精通している点です。

 

船は自己完結の世界ですから,

日常生活で必要な機械のほとんどが船内に備えられています。

主機,発電機,ボイラー,冷凍機などは勿論,

蛍光灯やコーヒーメーカー,冷水機など生活系の機械類にも詳しくなります。

 

ですので機関士の仕事をしていると,陸に降りてもメカには強いです。

メカの強さを趣味で活かす人もいます。

車やバイクをいじるのが好きという人も多いですね。

 

機関士は陸に降りても引き出しが多いですから,

船乗りの道を辞めても,就職先がたくさんあります。

 

それぞれの仕事の大変さ

航海士

航海士の方がよく嘆いているのは睡眠時間の短さです。

当直制のため「4時間働いて8時間休む」というシフトを延々と繰り返します。

 

8時間休めるといっても,仕事の準備や書類仕事がそこに食い込んできますから,

眠れる時間は実質6時間以下となります。

 

法律上,本当は働いたら駄目なんですが,

昔からの慣習でサービス残業だらけです。

 

ワッチ中はずっと立ち仕事なのでそれが辛いそうです。

海域にもよりますが,大洋航海中は何もなさすぎて気がおかしくなるそうです・・・。

コーヒーを飲みながら,眠気との戦いになります。

 

機関士

機関士の辛さとしてよく挙げられるのは,職場環境の物理的な過酷さです。

機関室は騒音,高温,回転体など様々な危険性を有しています。

 

回転物に巻き込まれたら指や腕を失いますし,

高温高圧の蒸気を浴びれば火傷を負います。

怪我で職を失ってしまう方も少なくありません。

 

航海士と違って当直制ではありません。

朝起きて昼働いて夜眠るという働き方なので陸上の仕事と同じです。

ですので,睡眠の質は航海士よりも高いと思います。

 

あえて睡眠時間ではなく睡眠の質と書きましたが,

若手の頃は仕事量が多いので機関士でも睡眠時間は短くなりがちです。

しかし,夜に眠ることができるので,体内時計的には航海士よりマシです。

  

給料

航海士と機関士,どちらの給料が上なのか気になりますよね。

 

当直制で深夜勤務のある分,

機関士より航海士の方が若干高くなる傾向があります。

また航海士は通信士の仕事も兼ねているので,その分の手当も出ます。

 

航海士の転職先として水先人(パイロット)があります。

水先人は船長経験者だと年収4000万円とも言われています(!)

 

給与面を気にするなら,航海士がよいでしょう。

 

機関士は残念ながら手当がつくことはほとんどありません。

ただ,転職先が多いので,船乗りを辞めた場合の選択肢が多いのはメリットです。

 

まとめ

航海士も機関士も同じ船乗りですが,仕事の内容は全然異なります。

よって,同じ船乗りでも適正も違ってくるでしょう。

 

海図やレーダーなどの航海計器を駆使し,様々な気象海象に対するアプローチを図って,巨大な船を動かすという実感を得たい人は航海士を目指すべきでしょうし,あらゆる機械を知り尽くした縁の下の力持ちとして活躍したいなら機関士を目指すべきでしょう。

 

睡眠不足が苦手なら航海士を目指すのは得策ではありませんし,

機械に全然興味が持てないなら機関士はやめましょう。

 

どちらにも共通しているのは,

体力と,長期間の閉鎖空間で人間関係を構築していく能力です。

逆に,体力があり人間関係さえちゃんとしていれば,多少の問題ならクリアできます。

その点は,特殊な職場環境とは言え,陸上の仕事と変わらないでしょう。