とある外航船員の本音

外航海運会社で機関士をしています。

外航船員が感じる船内生活の辛さと娯楽

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本日は”外航船員が感じる船内生活での辛さと娯楽”をテーマに記事を書きました。

長期間隔絶された世界ならではの辛さと娯楽があります。

 

外出禁止の180連勤に耐えられるか

乗船勤務は人権侵害?

外航船員は長い人で6ヶ月程度の乗船勤務があります。

6ヶ月もの間,海の上で寝起きする生活を送っているわけです。

 

想像してみてください。

ただでさえ気を遣う上司と朝から晩まで共に過ごす生活です。

どうしても職場とプライベートの区切りが曖昧になっていきます。

真に一人になれる時間は寝ている時くらいです。

もしあなたが会社からこのように命じられたらどのように感じるでしょうか?

 

「明日から180日連勤してください。その間,会社の建物から外出することは一切できません」

 

普通の仕事でこんなことを言われたら,

人権侵害と言っても過言ではない労働環境です。

 

 外航船員の辛さとして「家に帰ることができない」とよく言われます。

この説明は的確ではありません。正しくは以下の通りです。

 

「会社から出ることができない」

普通の職場でこれを達成するのは並の精神力では不可能でしょう。

 

このような勤務体系の仕事は,

他に宇宙飛行士や海上自衛隊,南極観測隊くらいだと思います。

どの仕事も特殊な訓練を必要としていますね。

外航船員はそれくらい過酷な労働環境の下で生活しているわけです。

 

勤務形態も変化しつつある

欧米の船会社では「長期間の乗船は人権侵害だ」ということで勤務形態も大きく変化してきています。

2ヶ月乗船,2ヶ月休暇という体制をとっている会社もあるそうです。

 

日本の船会社の場合,乗船:休暇の割合は2:1から3:1くらいが一般的ではないでしょうか。

6ヶ月乗船したら3ヶ月の休暇,4ヶ月乗船したら2ヶ月の休暇という具合です。

 

近年は乗船する期間も昔と比べると短くなってきました。

乗組員の同意がないと,6ヶ月以上の乗船勤務はできません。

  

船内の娯楽はインドア志向

それだけ労働環境の厳しい外航船員ですから,船内にも娯楽が必要です。

船内の娯楽といったら何を思い浮かべるでしょうか。

 

宴会でお酒を飲んだり,ギターを演奏したりというのが海の男といったイメージかもしれません。

お酒好きのキャプテンや機関長が乗っている船だと,ほぼ毎日宴会ということもあるかもしれません。

 

実際はもっと大人しく,インドアな娯楽を楽しんでいる人が多いように思います。

船の中には大量のDVDが並んだ本棚のようなものが備えられていることが多いです。

漫画や小説,雑誌なんかも並んでいます。ちょっとした図書館ですね。

 

映画やドラマ,アニメなどを見るわけですね。

航海士や機関士には基本的に個室が与えられていますので,各自ノートPCなどで視聴しています。

 

皆が映画やアニメについて詳しくなるので,

食事の席などで「あの映画が面白かった」「あのアニメはいまいちだった」というような会話になります。

そうすると,船の中でちょっとしたブームのようなものが起きたりします。

 

前回乗船した船では『逃げるは恥だが役に立つ』が流行しました。

私は石田ゆり子のファンになってしまいましたね・・・。

 

上陸は数時間の海外旅行

外航船員は文字通り世界を股にかけています。

もちろん外国の港で上陸するチャンスもあります。

しかし,経営の合理化が叫ばれる昨今では,せいぜい数時間の上陸しか楽しめません。

 

数時間ですから,買い物や食事をすればあっという間です。

上陸は船乗りの特権というより,あくまでおまけと割り切っている雰囲気です。

 

しかも若手船員となると,上陸に際して上長からおつかいを頼まれることがあります。

このおつかいに時間を奪われて,上陸を満足に楽しめないまま帰船する場合も少なくありません。

 

出港に遅れた船乗りは一発OUT?

ちなみに上陸した船乗りが出港時刻に間に合わないとどうなるのでしょうか?

 

答えはクビです。

帰船時刻に遅れた船乗りはクビと昔から相場が決まっているそうです。

 

まあ実際はそんな話は聞いたことがありませんけどね。

安易な気持ちで脱船させないという意味合いもこめて,このような厳しい通説が普及してるのだと思います。

本当に帰船時刻に遅れてクビにしてしまったとしたら

会社側としては新たな船員の確保や事務手続きなど,無駄な仕事が増えるばかりです。

厳重な処罰があったとしても,めったにないと思います。