とある外航船員の本音

外航海運会社で機関士をしています。

外航船員のメリット・デメリット

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外航船員という仕事はあまり一般的ではありません。

それもそのはず,海運業界自体の市場規模は大きいのですが,

日本の外航船員の数は,2018年現在で2000名程度と言われています。

島国であるにもかかわらず船員という職業について,あまり知られていないのが現状です。

 

今回は船員という職業,特に外航船員について,

そのメリットとデメリットを紹介していきます。

外航船員のメリット

数ヶ月の長期休暇

日本でサラリーマンをしている限り,数ヶ月のまとまった休暇が手に入ることは非常に困難です。

しかし外航船員は数ヶ月の乗船勤務と陸上休暇を繰り返す生活をしているため,

サラリーマンであるにもかかわらず1〜4ヶ月程度の休暇を取得することができます。

 

それだけまとまった時間があると,何かに打ち込むにはもってこいです。

例えば,長い休暇を利用して留学をする人や世界一周旅行をしたりなどですね。

どちらも普通の会社員をしていては考えられないですね。

 

私も入社した時に当時の役員から『船乗りには2つの人生がある。それを大いに楽しんで欲しい』と言われました。

それを聞いて「船乗りというのは単なる仕事ではなく,生き方そのものである」と感じました。

 

比較的待遇が良く,お金が貯まる

船乗りの給料は同世代と比較するとかなり良い方です。

大手海運会社の場合,新卒で手取り40〜50万円になります。

 

しかも,陸上休暇中も給料がもらえます。これは嬉しいですね。

ただし,乗船手当等がつかない分,乗船時よりは減りますが。

 

また,船内ではお金を使うところがないので貯まりやすいです。

船内では食費や電気代なども一切かかりません。

ですので一度乗船すると,車が買えるくらいのお金が貯まります。

 

下船すれば毎日が休日ですからついつい遊びすぎてしまう船乗りも少なくありません。

一文無しで,次の乗船を迎えたという話もよくあります笑

 

絶景に出会える

船に乗っていると普通の生活をしていては出会えないような絶景に出会うことができます。

内容が多いので箇条書きで説明します。

 

・360度オーシャンビューのバーベキュー

船上では気分転換のために時々バーベキューをやります。

360度のオーシャンビューでサンセットを眺めながら,バーベキューをすることができます。

海から眺める夕日は陸のものとは比べ物にならないほど大きく,美しいです。

一般の方からすれば,何万円もお金を払ってするようなことが全て会社のお金でできてしまいます。

 

・珍しい自然現象

またセントエルモの火グリーンフラッシュなどの珍しい自然現象に遭遇することもあります。

私も乗船中に一度だけグリーンフラッシュを見たことがあります。

【幻の光】グリーンフラッシュとは!?条件や見れる場所について[小笠原諸島] | オガサワライフ.com

 

・イルカやクジラ,時にはトビウオ

イルカは船と並走するように泳いでいる姿を時々見かけます。

イルカを見ると仕事のストレスがちょっと癒やされますね笑

 

クジラは潮を吹くので結構簡単に見つけられます笑

 

トビウオは群れをなして,船の周囲を囲んで飛び回るので圧巻です。

 

寄港地で上陸できる

寄港地での上陸はちょっとした海外旅行です。

レストランで食事をし,スーパーで買物,ちょっとしたお土産を購入します。

余裕があれば観光地に行ったりもできますね。

元気な人は風俗に行ったりもします。

 

世界一大きなモビリティを動かすというやりがい

世界一大きなモビリティを動かすことができる,というのはスペシャルな体験だと思います。

東京タワーと同じくらいの大きさの物体を動かすことができるというのは誇りを持って取り組める仕事だと思います。

 

話題性に尽きない

初対面の人に「船乗りなんだよね」というと大抵質問攻めにされてしまいます。

ですので,美容院などで話のネタが尽きません。

 

外航船員のデメリット

閉鎖的な人間関係

船乗りのデメリットは様々なですが,個人的にこれが一番重要な問題だと思っています。

逆に,人間関係さえできていれば大丈夫です。

様々な経験を備えたスペシャリストが揃っていますので,技術的な問題の場合,互いに協力し合えば,大抵の問題は解決することができます。

 

厳しい上下関係

船内には船長以下さまざまな役職があります。

甲板部なら一等航海士,二等航海士,三等航海士,以下部員。

機関部なら機関長,一等機関士,二等機関士,三等機関士,以下部員というように続いていきます。

船内での食事を担当する司厨部もありますね。

 

これらの役職の上下関係は法律で定められています

上長の命令には従わなければなりません

まるで自衛隊ですね。

 

できる上司に当たればラッキーですが,

相性の悪い上司に当たってしまうと地獄です。

物理的に閉鎖的な人間関係となりますから,ものすごくストレスが溜まります。

ストレスが溜まると怪我や事故が起きやすくなり,大変危険です。

厳しい上下関係の中でうまくやり過ごすスキルが求められます。

 

長期間の陸上から離れた生活

家族を持っている人ならこれが一番ストレスになるかもしれません。

子供の成長を見届ける機会が大幅に減ってしまいます。

入学式や運動会,卒業式などのタイミングで乗船していれば出席することはできません。

 

家族に万が一のことがあった場合でも,すぐに駆けつけることができません。

緊急下船という制度がありますが,最寄りの港に行くまで何日もかかることも少なくありません。

 

危険!汚い!臭い!典型的な3K 

船員の職場は当然船です。

船の中には機械類や危険物がいたるところにあります。

 

海が時化た時には船は大きく揺れます。

多くの機械類や危険物があるのに何時間,時には数日間も揺れ続けますから

当然,そこで働く船員は危険にさらされます。

指や手を失ったという話も少なくありません。

 

船外の作業となると風雨にさらされます。

海中転落すれば死にます。助かる確率は限りなくゼロです。

 

航路によっては北極や南極に近づけば極寒の地になりますし,赤道に近づけば灼熱の中での作業になります。

 

船内は生活の場でもあるため何トンもの生活ゴミが出ます。

寄港地でそのゴミを陸揚げをしますが,

何トンものゴミを手作業で運搬することも少なくありません。

当然,汚くて臭いです。

手袋はしていますが不衛生な環境であるため,船乗りはブルーカラーであることを改って時間する瞬間です。

 

連休の予定を合わせにくい

乗船中はもちろんですが,陸上休暇中も友人や家族との予定が合わせづらくなります。

 

陸上休暇は毎日が週末のような感覚ですから,

世間の動向に合わせて予定を立てなくなるからです。

 

そのため,普通の仕事をしている友人にド平日であるにもかかわらず「遊びに行かない?」などと連絡していまいます。

もちろん「は?普通に仕事だよ!」となるわけですが・・・。

 

結局,せっかくの長期休暇も一人で過ごすことが多くなってしまいます。

家族がいても共働きであれば簡単には休めませんし,子供も学校や幼稚園がありますからね。

 

まとめ

外航船員のメリットとデメリットをそれぞれ紹介していきましたが,

いかがでしたでしょうか。

 

私自身,外航船員を志した時は長期休暇や経済的な余裕などメリットばかり目を奪われておりましたが,

実際に働いて初めて見えてくるデメリットも多々ありました(もちろん実際に働くことで判明したメリットもあります)

航海士/機関士を志している方に本ブログが参考になればと思います。