大手海運会社が実施する航海士/機関士の自社養成コース
昨今の船員不足が叫ばれる中,
大手海運会社では10年ほど前から一般大学卒の学生向けに自社養成コースを実施しています。
今回は,大卒の就活生が自社養成コースに採用されるまでの話を紹介したいと思います。
就活の時期は一般の企業と同じ
自社養成コースのある大手海運会社は2018年現在,日本郵船・商船三井・川崎汽船の三社です。
三社とも経団連に入っているため,就活の選考時期は概ね他の会社と変わりません。
私の経験でも,説明会やエントリーシートの提出,面接の時期は経団連の規定通りに進んでいきました。
他の企業と併願して就職活動を進めることができるのは,就活生側にはありがたいですね。
最初の関門,エントリシート
大手三社ともまずWeb上でエントリーを行います。
エントリーシートの内容は,会社ごとに特徴があります。
一つずつ見ていきましょう。
日本の最大手の海運会社,日本郵船のエントリーシートは意外にもシンプルです。
- 手書き。罫線あり。
- 分量は少ない。A4半分程度。
- 内容は”志望動機”,”学生時代に頑張ったこと”
商船三井のエントリーシートは長大で,しっかり書かせるものでした。
- エントリーフォームからPCなどで入力。分量は多い。
- ”志望動機”,”学生時代に頑張ったこと”,”人生で一番苦労したこととそれを解決したエピソード”,”海上職に対するイメージ”など各400時程度。
個性的な人が多いという社風の川崎汽船。
エントリーシートも個性的でした。
- 手書き。罫線が無いので自由に書ける。
- 分量は多め。日本郵船以上商船三井以下。
- 内容は"海運会社を志望する理由","海上職を志望する理由”,”学生時代に頑張ったこと”,”自由に自己アピール”など。手書きなので字数制限は無し。
各社とも書類選考では学歴やWebテストの結果を勘案して通しているようです。
飛行機の自社養成パイロットほどではないですが,狭き門です。
倍率は航海士で50倍くらいじゃないかという噂です。
一方,機関士は穴場で5倍くらいなんじゃないかという噂です(笑)
「船乗りとしてやっていけるのか」を何度も確認される
書類選考をクリアすると面接を受けることになります。
この時点で各社100人くらいまで絞っていると思います。
面接まで残るような優秀な学生は限られていますから「日本郵船の面接で見かけたアイツが川崎汽船の面接にもいた!」というシチュエーションは多々あるようです。
狭き門ですから大手三社を全て併願する人がほとんどですね。
ここまで残っている学生の大半が部活動経験者という印象でした。
やはり船員という男社会で体力・気力が求められるイメージ通りといった感じですね。
ラグビーやアメフトなど体育会ヒエラルキーでもトップクラスの種目が多かったです(笑)
そのようなスポーツの経験者でなくとも「一人旅で世界を回った」とか,
タフネスをアピールしやすいネタの持ち主が多かった印象です。
自分の場合,面接は3回ありました。
4回あったという人もいました。
その辺の事情は人事のみぞ知るですね。
1次面接で海上勤務に対するストレス耐性を見られる
1回目の面接では40代くらいの面接官が3人。学生は自分ひとり。
印象的だったのは「本当に海でやっていけるのか」ということをかなり突っ込んで聞かれたこと。
船上という特殊な環境でのストレスに耐えられなくなり,辞めてしまう者が少なくないのかもしれません。
せっかく大金をかけて養成した船乗りが「やっぱり合わなかった」と辞められたら大損ですからね・・・。
また,面接と同じ日にクレペリン検査というストレス耐性の検査を受けました。
クレペリン検査とは「一定時間内でできるだけ早く正確に足し算を解く」という作業を通じて,単純作業に対するストレス耐性を見る試験です。
飛行機のパイロットや電車運転士などの入社試験でも実施されているみたいですね。
【内田クレペリン】って聞いたことありますか? | ビズリーチ・キャンパス
1回目の面接を終えて30分後くらいに通過の連絡が入りました。
各社とも通過時の連絡は即日か遅くとも翌日には来るみたいです。
2次面接ではトリッキーな質問が飛び交う
2回目の面接では50代くらい,おそらく部長級の面接官が3人いました。
2回目の面接で印象的だったのは次の質問。
「あなたが小人になったとします。車のボンネットに閉じ込められてしまいました。どうやって抜け出しますか?」
自分は偶々,説明会で機関士の方と話す機会があり,その時に機関士の方からこういう話を聞いていました。
「機関士は機械から発せられる音を気にしている。異常があると普段とは違う音が聞こえてくる」
この時の話を咄嗟に思い出したので
「異音を出して,周りに気づいてもらいます」
と言ったら面接官に納得してもらえました。
2回目の面接の通過連絡が入ったのも,面接が終わって1時間後くらい。
人事の方は「次で最終面接となります」と教えてくれました。
最終面接は厳格な雰囲気
3回目の面接はこれまでとは違うフロアで行われました。
面接室のあるフロアに入った瞬間,明らかにこれまでと雰囲気が違うのがわかりました。
最終面接は映画『ゴッドファーザー』の世界に入ったかのような緊張感でした。
でも,質問の内容は比較的平凡で”志望動機”,”大学で何をしていたか”,”船でやっていけるのか”というこれまでの面接のハイライトみたいな内容でした。
雰囲気に飲まれないことが重要だったと思います。
役員の方から「君は才能があるね」と言われたのがとても嬉しかったです。
面接が終わって一時間後くらいで電話がかかってきました。
「おめでとうございます。内々定です」と言われた瞬間に就活終了を決定。
総合商社などの選考は残っていましたが,全て断ることにしました。
奇しくも,初めて内々定をもらえたのが船乗りの自社養成コースでした。
第一志望の業界に無事内定を貰うことができて,ホッとしたのを覚えています。